絵本づくりの考察 9. 「オノマトペ」

絵本の要素は、文と絵ですが、必要なのはそれだけではありません。
ページ構成のリズム、言葉のリズム、そして音も一緒に考えることで絵本の世界は広がります。
一人で黙読しても読み聞かせでも絵本から受け取る内容は、文字の意味と絵だけではないのです。

音やリズムを表現するには、擬音語や擬態語を使う方法があります。
擬音語とは、実際に聞こえる音をまね描写した「どーん」「わんわん」「ごろごろ」等で、擬態語とは、心情、状態、音を発しないものを字句で模倣した「きらっ」「ぎくり」「ニコニコ」等のことです。
またマンガが一番わかりやすいですが「しーん」という表現も、不思議なのですが「音」で静かな音のない状況を表しているのです。

そして、この擬音語と擬態語の総称を擬声語=オノマトペ(仏:onomatopee)といいます。
日本語は話し言葉でも書き言葉でもオノマトペがよく使われ、たくさんの種類がある言語です。
例えば雨の状態を表すには「しとしと」「ジトジト」「ざーざー」「ザー」等がありますが、この「オノマトペ」を適正に使うと、読者はその音を楽しむと同時に絵本の世界のイメージが広がります。

左:「がちゃがちゃ どんどん」作/元永定正 (幼児絵本シリーズ)福音館
右:「‪宮沢賢治のオノマトペ集‬」監修/‪栗原敦‬ ‪編‬/‪杉田淳子‬ ちくま文庫

写真の左は前衛美術作家、元永定正の幼児絵本。
いろいろな音に合わせて、色彩豊かで抽象的な絵が動き出し、音が見えてきます。
「がちゃがちゃ」とカラフルで短いジグザグ線は現れ、「どんどん」とオレンジの大きなコロッケのような楕円は跳ねています。
物語の理解がむずかしい幼児でも、具体的な物や事が登場しないことで、直接感じる世界が広がっています。

そして、宮沢賢治の作品にはたくさんのオノマトペが効果的に使われています。
例えば風が「どう」と吹くと教室のガラス戸はみんながたがた鳴り、狐は「キックキックトントンキックキックトントン」と足ぶみをはじめ、土神はまるで「べらべら」した桃いろの火でからだ中燃やされているように思う等、いろんな状況を説明するのに独特のオノマトペを効果的に使う事で読者のイメージが広がり、宮沢賢治の物語の世界が印象づけられるのです。
写真の右「‪宮沢賢治のオノマトペ集‬」という本では、‪宮沢賢治の‬作品で使用されているオノマトペを、手描きの表情のある文字として描き、それらに対して簡単な解説をし、オノマトペの意味や楽しさをピックアップされているので、表現の広さに気付く事がたくさんあります。

最後に、有名な中原中也のサーカスという詩では「ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん」という言葉が繰り返されます。
サーカス小屋での空中ブランコの揺れる様なのですが、繰り返し、歌のフレーズように書かれていることで、独自の言葉がつくる世界に、だんだんと心地よい酔ったような一体感を感じます。
作者が作り出す、聞いた事のない音が、物語の世界のイメージをより広げています。

こんなふうに、どんな場合も 思い込みや思いつきで言葉を使わずに、どういう音が自分のイメージしている世界なのかと考え、最適な表現を探す事が、絵本をより面白くする方法の一つになります。

絵本コース講師/中田弘司

 

絵本づくりの考察(各記事は、下記をクリックしてくださいね)

  1. 1.「起承転結」
  2. 2.「擬人化」
  3. 3.「シンプル」
  4. 4.「文字の表情」
  5. 5.「普遍性」
  6. 6.「目的」
  7. 7.「序破急(じょ・は・きゅう)」
  8. 8.「キャラクター」

 

 

中田 弘司

中田 弘司
Profile
制作事務所勤務デザイナーを経て、1989年よりフリーランス。
今までに幼児向け雑誌絵本等にて100話以上のお話の挿絵制作。
絵本をはじめ、「ビッグコミックオリジナル・増刊号」(小学館)表紙イラストや、
月刊誌「大阪人」にて歳時記や町歩きの画文の連載等、
壁画からキャラクターまで多様な作品を制作。
東京・大阪・神戸にて個展多数。主な絵本に「ぷぅ」( 作:舟崎克彦/ポプラ社 )がある。
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目には快感、心が楽しみ、気持ちを遠くに運ぶ
絵本やイラストを目指しています。
仕事での経験を生かし、一緒に考えながら、アドバイスをします。
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