TEACHER INTERVIEW

佐川俊浩講師インタビュー

特集講師インタビュー第3弾は、美術科・デッサン基礎科コース講師の佐川 俊浩先生に、担当されている通信講座や、絵と仕事について、また先生の普段の趣味についてなどをお伺いしました。

絵と仕事と

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――さっそくですが、佐川先生の自己紹介をお願いします。
 はい。簡単な自己紹介ですが、京都芸大の油彩を専攻して卒業後は受験生を教えたり、アルバイトで、鉄鋼所で溶接なんかをしたり 本格的な作家活動というよりは細々と仕事と作品作りを続けてきました。
――色々なことをご経験されてきたのですね。色々経験された中でも、これは自分の成長にさらに繋がったお仕事や、特殊なお仕事などがあれば教えてください。
 そうですね。ちょっと特殊な仕事に就くことになったのですが、学生の頃からリアルな風景を描いていましたが、それを生かした仕事として、フォトモンタージュの作成会社に入社することになりました。リアルに描く能力が必要。というのが私のやってきた絵のスタイルと合致してその会社に採用されることとなりました。その会社は橋やダム、道路などの土木の完成予想図を作成する会社でした。仕事はモンタージュで使う風景の撮影。パソコンによる3Dデータの作成。そしてそのデータをもとに写真上にエアブラシでまるでそこにあるかのように絵を描く仕事です。写真やコンピュータはそれまでほとんど触ったことがなかったのですが、この会社で両方の勉強をすることとなりました。
3DCGモデリング

3DCGモデリング

3DCGモデリング

3DCGモデリング

 入社したのは平成元年頃でしたが、仕事道具としてパソコンはNECのPC100、デジタイザー入力にペンプロッターという道具で出力し鉄道定規や雲形定規を使って線画を描き、エアブラシと面相筆で当時は描いていました。パソコンを使っていましたが、とってもアナログな世界でした。
 道路や橋、建物がどのような構造になっているのか等図面レベルからの知識やパースについてとても勉強のできた時期でした。今スクールでは風景画のセミナーをさせていただいていますが、皆さんにパースのことを説明させていただけるのはこの時の知識がもとになっています。
フォトモンタージュ資料

フォトモンタージュ資料

 また写真は4×5のカメラや67ブローニカメラによる現地撮影です。フジの67を使ったスタジオでの複写なんかを経験させていただいたことも今のカメラの知識の元になっています。
――凄くやり甲斐がありそうなお仕事ですが、沢山の勉強もされたようで、佐川先生の相当な努力が目に浮かんできます。このパースや写真の知識も含め、写実的だけど味がある佐川先生の絵があるのですね。
――最近ではデジタルで絵を描く方も増えましたね。そこについて佐川先生はどう思われますか?
 私が会社でパソコンを使って描くようになったのは、当時は高かったMacでフォトショップのVer1からです。誰も教えてくれないので全くの独学です。はっきり言って最初はどうやっていいものなのかさっぱりわかりませんでした。今では信じられませんが、レイヤーがなかったのです。選択範囲を作ってひたすら重ねていく作業でした。「え~い、手で描いたほうが早いやないか」となんども切れそうになったことを覚えています(笑) ただアナログでは修正が大変でしたが、そこはさすがにフォトショップ。修正依頼の対応が早くできるということで、徐々にパソコンに変わっていきました。プリントはまだ出力センターのお世話にならないとダメでしたが、絵もパソコンで描けるのだなということが仕事においても一般的になっていきました。
CGテスト画像

CGテスト画像

 絵を描く時、スケッチを何枚もして、それを基にした下絵を描き、構想が決まって本画を描く。ということが今までは必須でしたし、現在でも風景は絶対現場主義。という方も多くおられます。しかし教室を見回しても、年配の方でもスマホやタブレットを使用したり、デジカメで撮った写真を基に描いたり、というのはごく普通になってきていますね。 中には画像をパソコンで自分のイメージに合うように加工されてそれを基に描くなんていう方もおられます。この方法について色々ご意見もあるかと思いますが、私は使えるものはどんどん使われたらいいと思っています。
 アナログとデジタルの垣根は現代においてはそんなに高くないと思います。写真が発明された時には色々な作家が実際制作に使っていますし、中世において遠近法が編み出された時は、その最新の方法論をこぞって絵の中に使っているのを見ることができます。 そして最初は革新的な技法も一般化するとまた新たな方法論が出てくる。ですから新しいことにも興味があればどんどんチャレンジされるといいと思います。

絵と趣味と

――佐川先生の趣味を教えてください。
 私は趣味で空(パラグライダー)を飛んでいます。全く絵とは関係ないので、言ってしまえばストレス発散のようなものなのですが、しかしここにも絵につながるものがあります。
パラ練習風景

パラグライダー練習風景

――パラグライダーですか。素敵な趣味ですね。パラグライダーと絵がどのように繋がって行くのか、さらに詳しくお伺いしてもよろしいですか?
 もちろんです。実はパラグライダーで空を飛ぶということは、一旦飛び出したら着地するまで誰も助けてくれないということです。緊急時に無線で誘導はありますが、操作するのはあくまで本人なのです。
 ということは自己責任の原則がそこには存在します。つまり飛ぶか飛ばないか、そして飛び出したら、どのようなフライトルートを選択するか、全ての五感と知識を総動員して判断していかなければなりません。

 

パラグライダー亀岡フライト

パラグライダー亀岡フライト

――なるほど。絵を描くにおいても、自己責任の原則が存在していますね。後は感性を発揮したりなど、絵画に近いものを感じますね。
 また、パラグライダーで飛ぶには気象学、航空力学などの勉強が必要になります。この気象学がなかなか楽しいのです。動力を持たない飛行物体はトンビと同じように上昇気流をつかむ必要があります。そこで地上を流れる煙や空に浮かぶ綿雲から風の流れをイメージします。雲の形から天気の予想もできますし、目の前の雲は大きくなるのか、消滅するのかということもわかるようになってきます。
 これらの知識は私のように風景を描くとき、雲の形やどのように出現するのかということをちゃんと理解した上で描くことができます。それまでは何気なく描いていた雲もちゃんとした知識で表現できるようになりました。空を眺めてみても雲の表情がよくわかるようになることはとても楽しい事でした。
落書き

落書き

――きちんと知識を身につける事によって、絵画においても、自然とイメージがし易くなり、自分の表現の幅が変わってくるのと同じですね。
 そうです。そして高く飛ぶためには地道な地上での基礎練習も必要です。私はこの地上での練習がとても好きなんです。凧揚げの感覚。そして絵においても落書きやスケッチがとても楽しい。むしろ作品よりも好きかもしれません。作家としてはそこ止まりでは困るのですが(笑) みなさんにも是非その基礎練習を楽しんでいただきたいと思います。そしてそれを基にきっといつか高く飛べる日がくると思います。
油彩

油彩

ペン画

ペン画

通信のこと

――先生はいつ頃から講師としてアートスクールでお勤めされているのですか?
 2006年から美術科で講師をさせていただいています。
――今年で10年目になるのですね!最初にされたお仕事はなんですか?
 アートスクール大阪で最初にさせていただいた仕事は通信講座開設のためのデッサン、水彩、油彩のテキスト作りのお手伝いでした。
――その当時はテキストの制作もされていたのですね。通信講座の添削にあたって、佐川先生が気を付けている点を教えて下さい。
 通信講座は教室のように、受講されている方と直接お話ができないので、いかにどのようなレベルの方にもご理解頂けるか、言葉選びと課題の策定が難しかったです。
 つい自分たちが使っている用語でも初めての方には理解できないことも多々あります。教室なら「先生それどういう意味ですか?」と言われればその場ですぐに返答することができます。
 例えば、明度、彩度、シンメトリー、ハッチング、パース、などなど、つい口に出して説明していますが、知らない方にとっては、何のことを言っているのかわからない用語です。
 受講される方はわからなければ、どのようなことでも疑問に感じられたら是非、積極的に質問していただければと思います。
通信添削

通信講座の添削風景

――通信講座に興味をお持ちの方へ、ぜひメッセージをお願いします!
 通信を続けることは本当に大変だと思いますが、最後に修了証を出す時は本当に良かったと思います。受講される方は色々なレベルの方がおられます。それでもこんな絵が描けたらと夢見て受講されることと思います。
 本スクールでは、各コースの先生方が丁寧に添削されています。皆さんの夢のお手伝いをできたらと思いますので、ぜひご興味のある方はチャレンジしていただきたいですね。
水彩(ガッシュ)

水彩(ガッシュ)

最後に

ペン画・水彩

ペン画・水彩

――最後にこのインタビュー記事をご覧になっている方に一言お願いします!
 「アート」というと何か高尚なもののような感じがしますが(そういう部分も確かにあります)制作される方個々人の感性が表現されるものだと思います。何も世界を変えたり、人々に感動を与えるだけでなく私小説のようなものでもいいですし、ちょっとした日々の中のドキドキでもいいし、自己満足だって構わないと思います。アートを通して日々の生活にはりが出たり、友人と会話が弾んだり、または世界の見方が変わったりしていければこんなに楽しいことはないのではないでしょうか。

 私の知識が皆さんの制作のお手伝いになればと思っています。
――沢山の質問にお答え頂き、ありがとうございました。
水彩

水彩

水彩

水彩

アクリル画

アクリル画

佐川 俊浩 プロフィール
佐川 俊浩

都市立芸術大学美術科卒
’83‾’84 京都美術展入選
’84‾’86 京展入選
’07 三田市展入選
’97‾’06 個展(4回) ギャラリー中井
’87‾現在 繪美展