TEACHER INTERVIEW

版画コース 山内あすな講師インタビュー

山内あすな講師特集インタビュー

山内先生と、その作品のギャップに迫ります。

Q. 早速ですが、制作をする時に意識していることを教えてください。

最近は特に意識して、対象物を隅々まで見るようにしています。
いろんな角度から見た様子やいろんな状態を知りたいので、必要であればスケッチ+撮影旅行にも行きますし、骨とかも骨の展示会なんかに行って本物を見て触って写真を撮らせてもらって描いています。

↑撮った写真(左)を作品(右)に使いました。

虫の場合は、生きている虫は可哀想で長時間捕まえておけないので、死んだ虫を拾うことの方が多いですね。
ただ…実は、虫はそんなに得意じゃなくって。

えっ!虫、苦手なんですか?たくさん描かれているので、てっきり好きだと思っていました。

積極的に触りたいとは思えないですね。形は格好良いと思いますし、体の構造は興味深いので好きですよ。
しかし虫を拾うことですらも気が進まないと言っていたら、ある生徒さんがたくさん拾って持って来てくださって。それはとっても有難かったのですが…、お菓子の箱に入っていたものですから、お菓子だと思って喜んで開けて大絶叫しました。あんなに驚いたのは人生で初めてかもしれません。見ていた生徒たちは大爆笑していましたが…。

生徒の皆様との仲の良さが伺えるようなお話ですね…!
虫の件も意外でしたが、山内先生は本人と作品のギャップが凄いと、よくいろんな方から言われていますよね。私もそう思うのですが、どうしてそのようなギャップが生まれているのでしょうか?

どうしてなんでしょう?基本的に人とお話することが楽しいので、いつも笑っているとは思います。そこが、作品とのギャップがあるように見えるのかもしれません。付き合いが長い人たちからはこういう絵を描いていることを「分かる」と言われますよ。ギャップがあると言われるのも、分かると言われるのも嬉しいので、どちらでも構いませんが。
ちなみに、高校生の頃はそんなことちっとも言われませんでした。昔は色がカラフルだったからでしょうか。

↑高校生の頃の絵はカラフルです!不透明水彩を使っていました。

言われるようになったのは、銅版画を始めて、色数を絞る面白さに気付いてからですね。銅版画も、最初の作品は今より多くの色を使っていました。

これが一番最初に作った銅版画の作品なんですか?

↑高校生の頃の絵から2年後の銅版画作品。印象が全然違いますが、動物を描くところは変わっていませんね。

そうですね。大学に入って初めての銅版画カリキュラムで作りました。他にも3作品くらい同時並行で作った記憶があります。銅版画は線画が下手だという事に気付かされる技法で辛かったのですが、この作品が完成した時には面白いと感じていました。銅に反応することで生まれる深い色が、求めていた暗さに合致していたんですね。
なので、線画は苦手でしたが、そのまま銅版のゼミに入りました。そこからはひたすら銅版を作って今に至ります。

線画が苦手だったと言いますが、今は線画で作品を作っていますよね?どうやって苦手な線画を克服したのですか?

苦手感が無くなったのは銅版画を始めてから3・4年経った頃なので、結構かかりました。銅版画は版上で見た時と刷り上がった時では絵が反転するので、デッサン力が如実に表れます。
なので紙に銅版画にしたい絵を細部までしっかり描いて、それをトレーシングペーパーに写して、さらにそれを反転させて銅版に転写して、それからようやくニードル(銅版の道具)で描く…という長い工程を昔は踏んでいて。
同じ絵を4回も描いていたんです。すぐに作品にならないのが嫌で、でもいきなり描いて失敗するのが怖くて。しかし一番初めに描いた絵が一番良かったりもするのです。そういうことが線画嫌いに拍車をかけていました。
それでもわりと気に入る作品が出来るようになってきて。ドイツに留学した時、ドイツ人の教授に日本で作った作品を見せたんです。そしたら、「全然楽しそうじゃない!」と言われてしまい…。当たっていたのでショックを受けました。
そして、「下絵を描かずに直接銅版に描きなさい」と言うので、頭を抱えながら下絵無しで銅版に魚の絵を描きました。自分としては駄作が出来てしまった…と思ったのですが、教授やドイツで一時期借りていたホテルのオーナーさんが気に入ってくれて。
褒められると嬉しくなって、こういうのも意外と良いのかもしれないという気持ちになりました。
一回してしまえば下絵無しの恐怖も薄らぎ、それからは躓きながらも楽しく描けるようになっていきました。

↑ドイツ留学中に作った版画作品です。下絵無しは絵を描くのが一回で済むので、工程も心も楽になりました。

今は楽しく制作をしています。今は特に生徒さんたちからの影響が大きいですね。いろんなことにどんどんチャレンジをして、良い作品をたくさん作っていくので、私も講師ですが一緒に頑張ろうと前向きになります。

やり方や環境を変えて、制作が楽しくなったという感じなのでしょうか。

そうですね。制作で悩んでいる方には、何が気を重くさせているのか一回考えてみることを提案します。絶対必要だから仕方がないと思っているモノも、案外無くてもいいモノかもしれません。

なるほど。版画コースは振替ができるので、山内先生は他コースの生徒の方からも相談を受けることがあると聞きましたが、こうした経験が生きているんですね!

うーん、そうだと嬉しいですね。私は話を聞いているだけで、大体の方が自分で解決していくので。

話すということがいいのかもしれませんね。
では最後に、制作のモチベーションを保つためにしていることを教えてください!

水泳と臨書です。どちらも趣味で、特技ではないのですが楽しいです。ストレス発散にもなり、描けない時に固まりがちな体や手を動かすので、手が止まっているという罪悪感を抱きにくいのもポイントです。絵を描くのにも体力は要るので、水泳は特にオススメですよ。

山内先生、ありがとうございました!

山内 あすな

山内 あすな
Profile
‘13 ドイツ Kunsthochschule Kassel
   交換留学
‘14 京都精華大学大学院修士課程版画専攻 修了
   17th International Graphic Art
   Triennial Frechen (フレッヒェン/ドイツ)
‘15 東京国際ミニプリント・
   トリエンナーレ (多摩美術大学美術館)
Message
版画の良いところはたくさんありますが、
私が気に入っているのは同じ作品をたくさん作れるところと、
作品サイズが大きくなっても一作品の重さが軽いところです。
日本国内に留まらず、海外にも簡単に送る事ができるので、
海を越えて展示をする事もできますよ。
ちょっとしたプレゼントとして、人にあげる事もできます。
版画は、学べば学ぶほど面白くなってくる技法です。
一緒に学んでいきましょう。
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