絵本の「テーマ」とは


(登場人物のごしょうかい)

T:Tちゃー 絵本の先生をしながら絵本を作っている。

P:Pくん  Tちゃーといっしょに絵の勉強中。



P たのもう!

T どうした Pくん。

P「絵本の描き方」的な本で、絵本を描くにはまずテーマを決めなさい、て書いてあったんや。

T うん。そういう描き方もあるよ。

P そこで相談やけど、Tちゃーはどんなテーマがいいと思う?

T は?!

P いや、だから絵本のテーマは何がいいと思う?

T 何か描きたいものはないの?というのは、例えば、テーマを「友情」とするわな。

P ふむふむ。

T じゃあ、どんな話にすれば「友情」を描けると思う?

P ん!そうやなあ、AくんとBくんがいて、二人が仲良く遊んでいるところ。

T ずーっと仲良く遊んでいるの?

P そう、朝から晩まで。学校で仲良く勉強して、帰りに遊んで、バイバイまた明日って帰るねん。おかしい?

T おかしいというよりも、浅い。それは友情を描いているのでなくて、友情のうわべだけしか描いてない。

P ム! AくんとBくんの友情はうわべだけとちゃう!

T と思っていても、読んでる方にはうわべだけしか伝わらへん。

P 難しいことになってきたなあ。どうしたらええの?

T 例えば、「友情」をテーマにするときは、逆に「友情」が失われる時のことを考えるんや。

 きっかけは ケンカした、借りたものを無くした、ウソをついてしまった。・・・いくらでもある。AくんかBくんとの約束を忘れて、遊びにいけなくなって、次の日怒ったBくんがAくんとケンカしてしまった・・・

P 仲直りせな。

T そうや。でもAくんが約束自体を忘れてて、お互いに相手が悪いと思ってたら?

P どっちも自分からは謝らへんなあ・・・どうしたら仲直りできるんやろう?

T そう、そこや!普段の「仲良し」だけでは分からない「友情」がここではじめて試される。Pくんの想像力もついでに試される。

P ・・・

T こういう経験は誰しもしてきている。その時に自分がどうしたか思い出して、実体験をベースに展開すると、物語自体の真実味がグッと出てくる。

P けど、そうやって、仲違いしたままの友達もおるなあ。真実味ってゆうけど、仲直りできませんでした、はダメなんちゃう?

T 真実味というのは、事実を描きなさい、というのとは少し違う。ああ、あの時こうしたらなあ、と後悔していることがあったら、「こうしたら」の方を物語にしたらいい。その人の実体験から出た後悔は、実体験にひとしい。真実味、真実というのは、そこにあるのかもしれない・・・・・

・・・・・

P あ Tちゃーが遠い目をして帰ってこないよ・・・ Tちゃー

・・・

T おっと、絵本のテーマから、文学の森に迷い込んでしまった。

 ここで、ぶっちゃけた話をしていい?

P なに なに なにをいうつもりなの 怖いけど

T そもそも 絵本にテーマっているの?

P どえらいこと言いはった!

T この絵本のテーマは「友情」です。これは「環境問題」です。これは「戦争と平和」です。これは「じぇんだー」です。これは「××」ですって分からんといかんものかなあ!

P Tちゃーが壊れた!

T だいたい「これは友情をテーマにした絵本です 推薦図書!」みたいな帯のついてる絵本読みたい?

P 微妙。なんかお説教されそう。教科書みたいで、自分からは多分読まへんな。

T そやろ。読みたくなる要素はきっと、もっと別にあるねん。それで手にとって読んだひとが、「ああやっぱり友達は大事やな」って思ってくれたらええねん。テーマは読んだ人がつけたらいいんとちゃうか?

P テーマは読者が決める!



T そういう考え方もぜんぜんあり、と思うよ。




 

高橋 禎司

高橋禎司
Profile

京都工芸繊維大学 工芸学部 造形工学科卒
建材メーカーでデザイン開発に従事
その後、絵画、絵本作成に取り組む
'19 有田川絵本コンクール佳作入選
'20 武井武雄記念日本童画大賞優秀賞

 

Message

絵本作りに特別な才能は必要ありません。
ただ作品を作り続けることで、今まで見えなかったものが見えるようになったり、
より深く自分の伝えたいことが、伝わるようになるようです。
そして作り続けられる人は、楽しめる人です。
人から褒められて楽しい、上達するのが楽しい、ただただ絵を描くのが、 物語を考えるのが、それだけで楽しい。どれでもいいのです。
「よく知っていてもそれを好きなものには敵わない。 それを好きでも、それを楽しんでいるものには敵わない」 論語のことばですが、何かを創作する人には特に当てはまるように思われます。
講座を通じて皆さんが「楽しめる」お手伝いができれば幸いです。

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