美術科金曜アトリエ通信 9月号・滞在制作してきました

金曜日アトリエ通信9月号・滞在制作してきました

 

美術科の山下です。8月中お休みをいただき、ありがとうございました。
この夏はニュージーランドで滞在制作をしてきました。
アーティストインレジデンスというやつですね。

白いキウイがいる国立野生動物保護区まで歩いて行けるこの場所は、
大草原の小さな家のようなジュラシックパークのような。

ここが私が使っていたロフトルームです。
窓から見える丘に羊や牛がいます。
街の人たちから「ロフトルームは誰が使っているの?」と聞かれることが何度かありました。
地域の人に利用されることもある愛すべき部屋のようです。
私がいると屋根裏の座敷童のようでしたが。

日本の3月くらいの気候でしょうか。
毎日何度も晴れと雨が短く移り変わる天候で、屋外での制作は思うように進みません。
屋内でも十分な自然光が長時間得られるかは全く予想できませんので、時間帯や天候によって複数の作品に取り組みました。
ややこしいお天気のおかげで虹は頻繁に、
長時間、しかも二重に現れることも多いので、
ゆっくりと虹を見ながら虹を描くという初めての経験をしました。

今回同じ時期に滞在していたのはイギリスから1名、アメリカから2名、オーストラリアから1名。
油彩画家、写真家、物書きが集まりました。
イギリス人の恋人のキウイ男性も含め6人でよく遊びました。
みんなお酒を飲むとはしゃぎます。
ロウソクが灯っている横でも踊りまくり、1人が暖炉で肘を強打して流血してしまいました。
隣に家が無いと歯止めが効かなくて厄介ですね。
私も付き合いは大事とカードゲームにダンスにと深夜まで頑張り、
想像のボールの投げ合いでは"She knows the game...!"のお言葉と共に
トロフィー(卵スタンド)をいただきました。
飲んだら幼稚園児と遊ぶテンションで良さそうです。
レストランで食事をしたテーブルでスケッチを始めた私たち。
アメリカ人は躊躇せずコップの飲み水で筆を洗っていました。

ニュージーランドではあまり食べる習慣がないからか、長生きの鰻に会えます。
記録では100歳を超えたものも。
鯉くらいの太さで2mにもなります。
川の80歳代の鰻にスコップでご飯をあげるのが滞在中の幸せな時間でした。
ゆっくり動いてゆっくり食べて、想像しにくいかもしれませんが素晴らしく可愛らしいんです。
青い眼をしていて手触りは濡れたシルクみたい。
このトンガの方からやってくるミステリアスな生き物が大好きになって、作品にしました。
ニュージーランドならでは!が見つかり行った甲斐がありました。

土ホタルってご存知ですか?南半球のロマンチックな観光資源になっていますが、
私たちは地元のパブの店主に道無き道を案内されて、
洞窟の川を渡る藤岡弘探検隊のよう。
この蜘蛛の糸みたいなものが青緑のささやかな光を放ちます。

普通のカメラじゃ何も写りませんが、写真家が粘って撮影に成功しました。
みんなでヘッドライトの明かりとタイミングを調節して協力し、
撮影のプロセスを見ていられたのはよい経験でした。
絵描きは暗闇では何もできないけど、写真家は撮影ができるという違いを実感しました。
洞窟から出てきたら星が土ホタルに見えました。
月明かりの中、暗闇にどかんと浮かぶ丘は太古の昔の姿のまま。
そんな中を車でビュンビュン走ると、木が倒れて流れていくネコバスのシーンそっくりです。
信号機は大きな町にしか無いようです。
最後の夜はロフトルームで小さなエキシビションを開いてみんなを招きました。
スーツケースにぴったり入るサイズのキャンバスをこしらえて行きましたので、
現地のお菓子や新聞紙なんかと一緒に収めて見てもらいました。
今後ここに集まる地域の方に見ていただきたい小さな作品は残してきました。

絵を描いて冒険をしてお酒を飲んで歌って踊って笑って。
素朴な感情はどこの国の人とも共有できるような気がしますね。
去年ヨーロッパではでっぷりとした男性を描くことが楽しいと知り、
今年ニュージーランドでは鰻という今まで考えもしなかったモチーフに出会えました。
どんなモチーフに出会えるかを楽しみに、こんな夏休みの過ごし方を続けたいなあと思います。
来年はどこに行こうかな!

追伸:制作を終えてから温泉で有名なロトルアにこの透明な川を見に行きました。
山瀬まみさんのピンクのカッパのCMのあの川です。

 

山下 智子

山下 智子
Profile
'07 東京芸術大学美術学部油画専攻卒業
O氏記念賞受賞
'09 同大学院美術研究科絵画専攻修了
(油画技法材料 研究室)
Message
専門も好みも様々な人が集まっているのがこのアートスクールの良いところだと思います。
他の人は何をやっているのかな、とぜひ見てまわってください。
誰かがいるアトリエには、ひとりきりで描いていても得られない発見があります。
ArtWorks
講師インタビュー

 

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